ストーリーの語源と姉妹語
「ナラティヴ」という言葉に比べ「ストーリー」という言葉は日常生活で頻繁に聞く機会があると思われます。「ストーリー」を日本語にすると「物語」。これもstoryという英単語を学ぶ際に当たり前のように習います。では「ナラティヴ」とどのような違いがあるのか。それにはまず「ストーリー(story)」の語源をナラティヴと同じように辿ってみましょう。
story の原形は古語であるラテン語の historia から来ていると考えられます。( historia の語源を更に遡ることもできますがここでは省略します)
historia から派生した英語として story の他に、「ヒストリー(history)」 が挙げられます。 story と history は historia から分化した、つながりの深い姉妹語の関係にあると言われています。(注)
historia の意味は、歴史・寓話・物語・過去の出来事の話・履歴 等となっており、過去にあった出来事や言い伝えを報告するというニュアンスがあるのかなと思われます。
ここからヒストリー = 歴史。ストーリー = 物語 と訳されるようになったことは容易に想像できると思います。
1つ目の違いは「閉じている」か「開いているか」
語源を辿っていくと「ストーリー」には、過去の出来事などを報告するということがベースとしてあると考えられ、「ある部分からある部分までこういうことがあった」等と、ある一部分を切り取って時系列で話していくことが基本になるかと思われます。
つまり「ストーリー」は、ある一部分を切り取ってパッケージ化されているのが特徴であり、これが1つ目の違いになると思われます。「ナラティヴ」は前回取り上げたように、現在進行形の形でパッケージ化されていません。つまり、「ストーリー」は始めと終わりが明確にあるのに対して、「ナラティヴ」は終わりが明確ではないというのが違いとなります。
2つ目の違いは「再現性が高いか低いか」
「ストーリー」はパッケージ化されているので再現性が高く、見ず知らずの人に向けて話したり書いたりしても、同じ内容が伝わると思われます。これに対して「ナラティヴ」は、即興で相手に向けて話していき、話す内容もベースは同じであっても、相手の反応や信頼関係、その時の記憶などによって変わっていきます。ということは再現性は低く、自分と相手の中だけで生じる話がナラティヴと言えるでしょう。
もちろん、ストーリーもナラティヴもどう解釈するかは受け取った人によってそれぞれ異なるというのは共通しています。
ナラティヴとストーリー、語りと物語の関係性
図の通り、ストーリーは「物語」であり、その内容は始まりと終わり(=区切り)が定まっていて再現性が高い。ナラティヴは「語り」であり、その内容は現在進行形で続いており、相手の反応などで内容も変わっていくことが多く再現性が低い。
とまとめられると考えています。またナラティブの内容が完結して話の終わりや区切りが生じたとき、それはストーリーへと変化したということになります。
つまり、ナラティヴはストーリーを生成する途中の段階とも言えるでしょう。ストーリーはナラティヴを包括するとも考えられ、ここからストーリー(物語) ≒ ナラティヴ(語り)というように広まっていったのかなと思われます。
とは言え、ナラティヴとストーリーには語源からも明確な違いがあることが前回と今回の記事で知ることができたかと思われます。
ナラティヴキャリア研究所では、1人1人オリジナルのナラティヴを重視し、再現性の高いキャリアストーリーを描けるまで継続的にサポートしていきます。
(注)田中千鶴香「言葉のつながり」『柴田耕太郎主宰「英文教室」オフィシャルブログ』(2015年9月15日)より。http://www.wayaku.jp/blog/?p=720 最終閲覧日:2022年1月9日